《MUMEI》
-朝-
「おはよう!」
「おはよ-!!!」

朝から飛び交うこの声が
得意ではない

おはよう
の次の言葉はいつだって決まっていて
昨日の自分の報告であって
自分にも他人にも
無関係な俺にとっては
どうだっていい言葉だった

あの日までは‥


「きゃ!ッごめんなさい、大丈夫ですか?

「‥別に‥いて-‥」

「急いでて、ごめんなさい」

「怪我はない?」

「私は大丈夫です、あなたは?」

「俺はないけど‥」

「良かったです。ッあ!」
「あ-壊れちゃったね時計‥」

「大丈夫です、安かったので」

「ならいいけど‥」

「私急いでるので行きます、バスが出てしまうので」

「じゃ‥」


素早く一礼して
行ってしまった彼女は
見てるこっちが焦るほど
危なっかしく小走りで
肩から落ちる鞄を
必死に押さえながら
走って行った

それが絢との
出会いだった

長く伸びた髪を
気にしながら
必死に走る彼女の後ろ姿を
ただ無関心に眺めていた

足元に名札が落ちていた

成瀬高校
B-2
木本 絢


「‥同じクラスか‥」

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