《MUMEI》
-彼-
小学校低学年の頃
ピアノの帰りに
いつも通る公園があった。
そこを通るたびに
ひとりで遊んでいる
男の子がいたの。

お互い
顔は知っているけれど
話かける事もなくて
いつも決まった時間に
目を合わせるだけ。
それだけだった。

ある日わたしは
ピアノ教室に遅刻しそうになった日があった。
お母さんに怒られちゃう
って必死で 必死で走った。
だけど喉が渇いて
あの公園に寄ったの。

夏の暑い夕方だった。

もう走る気力がなくて
ベンチに座っていたら
あの彼がいたの。
なんか話せる気がした。

「いつも何しているの?」
「‥」
「どこの小学校?」
「‥」
「‥わたしアヤって名前ゆうの、きみは?」
「‥」
「お友達いないの?」
「‥いないよ」
「どうして?」
「‥いらないから」
「悲しいね‥」
「今日は行かなくて‥いいの?」
「うん、いい!一緒に遊ぼ!」
「これあげるから、行って」
「とけい?くれるの?」
「‥うん。いらないからあげる」
「じゃ-いく!またね」

そういってわたしは走った。
彼に貰った時計を握りしめて
ピアノ教室に走った。
行ったらまた彼に会える
そう信じて走ったの。

ドン

わたしは赤信号を走った。確認もせずに走って
車にはねられてしまった。
時計は壊れてしまった。
軽傷だったけれど
時計は重傷で
もう直らなかった。

わたしはそのまま
違う街へと引っ越しをし
彼にさよならも
ありがとうも
彼の名前すらも
お返しすらも
出来なかった。
今思えば彼は
私にとって
初恋の人だったのかもしれない。
そして私は彼にとって
初めての友達だったかもしれない。

彼は今頃
どうしているだろう

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