《MUMEI》

「……良い。」

兼松のその一言で春三と林太郎は下がる。





「悪かったよ春三さん、これで離れに棲んでいる圓谷に角がたってしまったら……」

無言の春三の背中を見ながら呟く。

春三は無言で振り向く。なんだか不気味だった。

「……凄いよ林太郎君、父さんの威圧に臆せず立ち向かったのは君と八尋兄さんくらいだ。」

息を巻いて春三は林太郎の両手を握りしめた。
林太郎は叱責を覚悟していたので拍子抜けした。


「父さんはよく初対面の人間を試すんだよ。林太郎君はかなり高得点だったはずさ。でなきゃ、追い出されていた。そういう人だ。」

春三が僅かに翳り帯びた。

「俺はただ、ああいう権力に媚びたくなっかっただけだ。」

世話になるとしても自分であることは見失いたくない。潰れても何度でも立ち上がる、それが林太郎が今まで学んできたことだった。

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