《MUMEI》
【果穂と桜子と志穂】
その日は、毎年恒例の、花見に家族で訪れていた。

大志は、はしゃぎ回る大と秀に振り回され…

果穂は末っ子で、二歳になる貴子の我が儘に、手を焼いていた。

その結果、大人しく、聞き分けのいい、三歳の長女・志穂は、どうしても放任になってしまっていた。

―この時も。

「かあさん、トイレ」

と言う志穂に、果穂は、

「ごめんね。一人で行ってきて。志穂は、お姉ちゃんだから、大丈夫よね」

と、言った。

「うん!」

志穂は、素直に返事をすると、一人で公衆トイレに向かった。

その志穂を、熱心に見つめている人物に、果穂は気付かなかった。

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