《MUMEI》 果穂は、昔通っていた大学の近くのマンションにやってきた。 管理人の話によると、確かに志穂を連れた桜子は、ここに来ているらしい。 果穂は、かつて二人で暮らしていた部屋の前まで来ると、乱暴に、玄関を開け、中に入った。 桜子は、寝室にいた。 目の前の桜子は… 相変わらず童顔で、小柄だが… 顔は青白く、病的なほど痩せ細っていた。 志穂は…桜子の腕の中で眠っていた。 「相変わらず、チャイムを鳴らさないのね、果穂ちゃん」 「志穂を返しなさい!」 果穂が叫ぶと、桜子は、人差し指を、唇に当てた。 「せっかく寝たのに、起きちゃうでしょ?」 そして、志穂の頭を撫でた。 果穂は、怒りに震えていた。 勝手に一方的に音信不通になっておいて、突然現れ、我が子をさらった桜子に、殺意すら覚えた。 「いいから、さっさと返しなさい!」 果穂は、桜子に歩み寄る。 どういうつもりかはわからないが、桜子よりも、果穂の方が、力はある。 「動かないで!」 桜子は、志穂の頭を撫でていた手を、志穂の首に移動した。 志穂の細い首は、桜子の手の中に、すっぽり収まっていた。 前へ |次へ |
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