《MUMEI》
【裕(ひろ)と希(のぞみ)】
高校二年の夏。

その夏は、猛暑だった。

だから、

教室に、双子の兄・祐がいなくて

担任が、『仲村兄はどうした?』と言った時、同級生が、『保健室に行きました』と言っているのを聞いて、妹の希は、本気で心配していた。

なのに…

祐の寝ているベッドのカーテンを開けた希は、

目の前の光景に、呆然としていた。

そして、希に笑顔を向ける祐に向かって…

持ってきた祐のカバンを思い切り投げつけると、

保健室から逃げるように、駆け出して行った。

「いいのか? あれ」

祐と一緒にベッドにいた『男』が、希の出ていった方向を指差した。

「ま、いずれ話そうと思ってたし」

祐は、下着と制服を身につけながら、『男』に笑顔を向けた。

二人は…

冷房のきいた保健室でも、汗をかいていて…

裕の体には、無数の、明らかに『男』につけられた『跡』が残っていた。

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