《MUMEI》

希は、帰宅すると、すぐに両親の寝室にたてこもり、鍵をかけた。

何故自分の部屋ではないかというと、祐と希は一部屋をカーテンで仕切って使っていたからだった。

それに、今日は父・慎は、親友・祐希のアパートに泊まる日だった。

二人はとても仲が良く、母・志穂と結婚してからも、時々慎は祐希のアパートに泊まりに行っていた。

志穂が何度かノックしても、希はそれを無視した。

このマンションの部屋の防音は完璧で。

よほど大きな音を立てなければ、互いの声は聞こえなかった。

だから…

希は、祐の顔も見たくなかったし、声も聞きたくなかったから、丁度良かった。
しかし…

しばらくすると、人間、やっぱりお腹は空く。

それに、夏場だし、女の子だし、お風呂にも入りたかった。

希が迷っていると、ドアを控え目にノックする音がした。

希は、恐る恐るドアを開けた。

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