《MUMEI》 ◇◆◇ 内裏に入ると、胡蝶は奥まった部屋に通された。 「こちらが、姫君がお使いになられていたお部屋です」 「─────‥‥」 胡蝶は感嘆のあまり溜め息を漏らした。 (何て素敵な所‥) 垂れ下がった御簾から月明りが零れて来る。 桜の宮は胡蝶の身形を整え、銀色みを帯びた長い髪を梳いてやる。 「さあ、これで身形が整いましたよ」 「‥本当に‥私でいいんですね‥?」 「はい。勿論です」 桜の宮が答えると、胡蝶は安堵の息をついた。 「ここは──素敵な所ですね」 「お気に召しましたか」 桜の宮の問い掛けに、胡蝶は淑やかな笑みを浮かべた。 すると。 「──姫様、戻られたのですね!」 内裏で働く女房達が、一斉に集まって来た。 「よくぞ御無事で‥お怪我はありませんか」 勿論、女達は目の前にいる少女が胡蝶であろうなどと知る由もない。 「はい、大丈夫です。心配を掛けて‥済みませんでした」 胡蝶は姫君の作法を心得てはいなかった。 それでも、精一杯努めようと、只それだけを考えていた。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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