《MUMEI》

「あ、『ゆき』だ」

一番始めに食堂にやってきた男の子の声に、台所で料理をしていた私は顔を上げた。

名前を呼ばれたかと思ったのだ。

私の名前は、宮本(みやもと)ゆき。

雪の日に、この『施設』の前に捨てられていて、左手の甲に、雪の結晶のようなあざがあるから、と言うのが、名前の由来だ。

『宮本』は、私の名付け親で、ここの施設長の、宮本ゆかり先生の姓だった。

拾われた私は、子供のできない宮本先生…『母さん』の養女になった。

この施設は、元々事故等で、両親を亡くし、身よりの無い子供達が成人するまで生活する施設で。

他の子供達には、本当の親から与えられた名前があった。

男の子―安西透(あんざいとおる)が見つめていたのは、私ではなく、窓の外だった。

「本当…珍しいわね」

私は準備を終えると、透の隣に立って、一緒に窓の外を見つめた。

空からは、確かに『白い雪』が降っていた。

いわゆる『なごり雪』だから、積もりそうはなかった。

ちなみに…

私の『目』は、『人間以外』は『普通』に見えていた。

私は、チラッと、透を見た。

…今日も、『青い』

顔色が、ではない。

『オーラ』なんて可愛い表現でもない。

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