《MUMEI》 ◇◆◇式神の降臨◇◆◇ 「姫〜」 「姫様ぁ〜」 「おーい」 何やら外が騒がしい。 (誰かしら‥) 胡蝶は体を起こして寝床から出ると、垂れ下がっている御簾を掲げ、外を見た。 だが、そこには誰もいない。 (確かに今‥声がしたのだけれど‥‥‥) 辺りを見回しても人の姿はない。 気のせいだ、と自分に言い聞かせ、胡蝶は寝床に戻る。 だが。 「姫〜」 「姫様ぁ〜」 やはり声が聞こえて来る。 思わず恐ろしくなった胡蝶は息を殺して震えながら御簾の向こうに目をやった。 だが、先程と同じく誰の姿も見えない。 安堵した胡蝶が気を緩めかけた、その時だった。 「うむ‥まだ戻られぬようだな」 「どうする?」 「そうだなぁ‥」 「変ね、少し前に、姫様が牛車を降りて平安京に入って行くのが見えたんだけど‥」 四人の幼子達が、ひそひそと囁き合っているような会話が聞こえて来た。 (子ども達‥かしら) まだ時は寅の刻を回ったばかり。 この時分に、幼子が尋ねて来るのは不自然だ。 だが、その声の主らは、どうやら姫を知っているらしい。 (‥もしかしたら、姫様と何か関わりがあるのかも‥) 胡蝶は警戒しつつも寝床を抜け出し、そうっと御簾を掲げた。 すると。 「おお、姫!」 朱色の鳳凰が目を輝かせた。 続いて、 「姫様、お帰りなさぁい」 「無事だったのね、良かった」 青い龍と白い獣が親しげに話し掛け、そして、蛇の巻き付いた玄い亀が、畏まって頭を垂れた。 初めて見る不思議な生き物に、胡蝶は唖然とする。 「どうなされたのだ、姫」 「貴女は‥亀さん?」 すると、大きな溜め息をついて、亀は答えた。 「わたしは玄武だ。断じて亀では無い」 その容姿には似つかない、愛らしい女子のような声だった。 「玄武‥?」 こくり、と玄武は頷いた。 「わたし達は四象。ここ平安京の守護を司る式神だ」 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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