《MUMEI》

「……絶対、準決勝でなんか止まらない。
二郎の伝えたいたいこと聞けなくなる。」

支えてくれている手に力が篭っている。

「痛い…………そうやって豊太郎もエリスと擦れ違ったんじゃないかな。」

出世の誘いを受けたこと、まだ日本の未練を捨て切れなかったこと全部内緒にして、答えを出せずにいた豊太郎と秘密を抱え込んだ俺は少しだけ似ている。


だからいつもエリスを考えてしまう。

七生が約束のことちゃんと守ってくれようとしてて……何だか可哀相な七生。

七生も決勝のことばかり考えていて、俺のことちゃんと見れていなかった。



俺がエリスだったら精神病になっていただろうに。


「何笑っているんだ二郎?」

「だって、豊太郎とエリスが二人居た……」

七生はこの意味を分かってない。



「俺は豊太郎が嫌いだ。俺なら絶対哀しませない」

「本当に?」

もう哀しませたのに。



「俺、優勝したいんだ。それは他でも無い二郎のため、二郎に笑って欲しいからだ。約束なんてどうでもいい。」

朗読みたいにすらすらと言う七生は何故か現実味を感じられなかった。
俺が七生を信じていなかったから?

「ななお…………」

名前を呼んで確かめる。

「二郎、優勝するから」

この横顔、優しく響く低音の声、紛れも無い七生だ。

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