《MUMEI》

◇◆◇

「させるかっ」

 たちまち朱雀の焔が渦を巻き、自分達と鉄鼠との間に壁を作った。

「く‥っ。生意気な四象め‥」

 鉄鼠は憎たらしげに、燃え盛る焔を睨んだ。

「どうだ、かかってこれないだろ?」

 朱雀が煽るように鉄鼠を冷やかす。

 勿論、鉄鼠は黙ってはいない。

 鉄の爪が、焔を引き裂く。

「ばかっ。怒らせてどうすんのよ!?」

 白虎は慌てて胡蝶を下がらせる。

 眠りこけていた青龍は勢い良く水を噴き上げ、玄武と共に鉄鼠の動きを封じる。

 朱雀は翼を翻し上空から焔を放った。

 ───だが。

「ちくしょう、全然駄目だ」

「あんたが怒らせるからじゃない」 

「喋る暇があるのなら少しは手を貸せ」





 
 どれ位経ったろう。

 四象の苦戦振りを目の当りにし、胡蝶は大きな不安に駆られていた。

(どうしよう‥)

 その時だった。

 とてつもない威力を持った濁流────それが鉄鼠を飲み込み、跡形もなく消し去った。

 そして、その向こうから姿を現したのは、清らかな長い髪結い上げた若い女であった。

「天妃!」

 四人は母親にでも縋るかのように女の元へ駆け寄った。

 天妃とは彼女の異名であり、実の名は天后という。

「大丈夫?」

 天后は優しく声を掛け、四人を抱き締めてやる。

 すると、次々と奇抜な身形をした者達が姿を現した。

 天后を含め、全部で八人。

「相変わらずだな、お前達は。まだまだ半人前だ」

「っ‥何だよそれ、仕方ないだろ?」

「ちょっと、喧嘩は止めてよ」

「はぁ‥。全く、大人げないったら」

「そうじゃ、もう止せ。我らの面目が立たぬであろう?」

「何だよ面目って」

「それよりも‥朱雀、怪我をしているのなら見せてみろ」

「いいよ、別に治してくれなくたって」

「大人しく治してもらえ。強がるのは朱雀の悪い癖だぞ?」

「うるさいっ」

「‥‥‥‥」

「あのう‥」

 胡蝶が話し掛けると、黙っていた翁が振り向き、安堵の表情を浮かべた。

「おお、これは神楽姫様。戻られたのですな」

 自分が姫君の身代わりである事に誰一人として気付いていないという事──それよりも、四象以外のこの八人が一体何者であるのかという事が、胡蝶は気掛かりだった。

「どうなされたのですかな、姫様?」

 その翁に、胡蝶は恐る恐る問い掛けた。

「あのう‥‥貴方達は‥?」

◇◆◇

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