《MUMEI》

(何、あれ)

あんな人、初めて見た。

そもそも、あれは、人なのか。

…誰も、見えていなかったようだし。

私は悪寒を感じた。

私は確かに変わった『目』をしているが、そういう、非現実的な存在―

つまり、幽霊は見た事がなかった。

(でも…)

「足、あったよね?」
『あるに決まっておろう』


「わっ!」

いつの間にか至近距離にその『女の人』はいた。

金の髪に、金の瞳。

私と同じ『肌色』の肌。

神社の境内にいそうな神子姿の…

とても、美しい人。

私は恐怖を忘れ、うっとりと、その姿を見つめていた。

『そなた、妾が見えるのだな』

私は、無言で頷いた。

『そして、声も、聴こえておる…な?』

私は、また頷いた。

『では―…』

その時。

私の制服のポケットに入っていた携帯が震えた。

―義母の入院している病院からだった。

「もしもし!」
『もしもし、ゆきちゃん?
すぐ来て! ゆかりさんが…』

「はい!」

私は、携帯を切ると、

「すみません、急ぎますんで失礼します!」

『女の人』に頭を下げた私は、慌てて、タクシーを捕まえる為に、門の外に向かって走り出した。

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