《MUMEI》

俺も毎日ゝ勉学に行儀作法、経済学に政治と引き篭っていると体が鈍るので、慶一が此の辺を案内してくれると助かる。

此の間は月夜が美しかったので使用人達の目を盗んで庭を出て行った。

夜寝静まるときが一人で自由に動き回れる時間だ。

山に囲まれているのでたまに獣が出ると使用人が脅していたが北王子には現に足の悪い獣が棲んで居るではないか。


頭突きの一件から兼松を祖父とは呼ばず「兼松殿」と呼ぶことにしている。

兼松とは晩餐のみ揃えて食べるようにしていた。

たまに、北王子家を訪ねて来る客を饗ときなどは特に疲労が溜まる。

兼松は大っぴらに林太郎出生の秘密を話し始めるからだ。
食事中に席を立つのは無作法であり、兼松との距離は頭突きに行くには遠すぎた。


そして、兼松は必ず食べ終えると何かしら出題してくる。昨日は独逸語で前菜の味の感想を、一昨日は万年筆でクロスに難解な数式を書いた。

それらを解くまでが晩餐である。

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