《MUMEI》

エレベーターを使って上がる。
しかも二人きり。



七生と視線がぶつかるたびにどきどきした。

「二郎」


耳元で呼ばれてエレベーターを出るときに引き擦る足を支えられた。


「ひゃあ!」

あんまり近くて叫んでしまった。

「どした?」

七生は気付いてますか?この心拍数……



「……自分のことばっかりのお前がエリスのこと考えてたなんてな……」

気付かなかった。



「エリスのことだけじゃない。二郎が怒っている理由も考えてたよ………… 」

唇が次の言葉を紡ごうとしていた。

あ、謝られる。
咄嗟に口を押さえた。



「今はまだいいよ……俺もいっぱい考えとく。」

俺も七生のこといっぱい考えとく。


「豊太郎が阿呆だったんだ身近にこんな大切なものがあったのに……」

七生の引っ張る力が思いの外強くなった気がした。


豊太郎のことも七生は理解できてる。
だからこそエリスを大切にしたいんだろう。

そこまで七生は朗読していたのを読み取ることが出来なかった。俺の力不足だ。

七生が勝ち進んだのは舞姫を自分のことのように深く理解できているからだ。

こんなにも舞姫を体感していたら準決勝で止まる筈は無い。

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