《MUMEI》

「捕虜なら捕虜として扱うのが当然であろう?」
ロゼ達から数十メートル離れて行軍するアルトレアにローエンが訝しげに質問をしてくる。
「捕虜になったとは言え、彼女は一国の王です。相応の扱いをしているだけに過ぎない。第一、我々「風姫」が周囲を包囲している状況下で逃亡できると言いたいのですか?」
振り返りもせず、答えるアルトレアの声は冷たく、自身の決定を変える気が無いと無言で主張していた。
「こ・・この件に関しては報告させてもらうぞ!!」
「どうぞ、ご勝手に。」
捨て台詞を残して離れていくローエンを少しの間、眺め大きくため息をつく。
「・・・・確かに、教皇様に尋ねる必要はありそうだ。」
小さな呟きは確かな決意が満ちていた。

「夜ってのは良いね。ロゼ、聞こえてるか?」
馬上のロゼに向かって声を届けるのは闇。
日が完全に落ち、闇に染まった中では変わった所も無い、ただの闇。
騒いでいる禾憐が周囲の注目を集めているのでロゼへの警戒は薄くなっていた。
「・・セイですか?」
小さく、周囲に聞こえないように声を出すロゼ。
「そそ、オレ。ごめん、遅くなった。」
「私の事は構わず、退いてください。私はこのままコーリア教国へ行きます。」
「冗談キツイぜ。こんな所で諦める気か?」
困惑した声でセイが尋ねる。
「・・・私は、自身に流れる魔族の血を抑える事も出来ず、破壊衝動のままに殺しました。だから・・」
ロゼが辛そうな表情を浮かべながら、言葉を紡ぐ。
それにセイがキレた。
「そんな理由で諦めんな!!「抑えられなかった」だから何だ!!お前が暴走したらオレが止めるって約束しただろ!!実際、お前は正気に戻ってる!!どんな罪だろうがオレが変わりに背負ってやる!!だから逃げんな!!」
自身が纏っていた闇を散らすほどの怒声。
闇によって姿を隠していた闇が消えれば当然・・・
「敵だ!!」
見つかる。
隠れて密かに話をしていたのに、大声を出せば当然・・・
「何事だ!!」
ヒトが集まってくる。
「・・だあああああ!!やっちまった!!!」
ロゼの腕を掴んで逃げようとしたセイの腕を振り払うロゼ。
「今は・・・まだ。」
「絶対後で迎えに行くからな!!」
それだけ言うと駆け出していくセイ。
周囲の騎士を何人かを鞘で叩き伏せて駆け抜けていく。
「・・セイ。」
見送りながら知らず知らずの内に言葉が漏れた。

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