《MUMEI》

「これは、一体…」

『これは、この方の力です』

呆然とする私に、『男の人』が説明した。

『主がこの方の負の心を取り除いて差し上げたから、この方は、ご自身の気の力で、お目覚めになられました。

しかし、長くは持ちますまい。

主よ、今のうちに、この方に、お別れを…』

(『お別れ』…)

私が何も言えずに義母を見つめていると…

「ゆき…ありがとう」

義母は、そう言って私に微笑んだ。

「え?」

私は、首を傾げた。

「あなたが側にいてくれているからかしら。
今は、とても気分がいいの。
本当に久しぶり。こんな気分は…

あなたが、私の子供になってくれて、本当に、良かったわ」

「そんな、最期みたいな事、言わないで」

私は、義母の手を握りしめた。

(お願い)

しかし、私の願いは、もう届かない。

義母は、どんどん『白』に近付いていく。

「義母さん、嫌…」
「あらあら、ゆきは、泣き虫ね。
何故かしら?

今思い浮かぶのは、ゆきの事ばかりなのよ」

(それは…)

義母の『橙』は

『幸せ』は

『私との思い出』

という事だ。

「義母さん…」

私は涙が止まらなかった。

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