《MUMEI》

「藤田は俺を好きだとか可愛いとか言うんですけど、俺にはいまいちそういう感覚がわからなくて……」

佐藤は別の話をする。

「それはそうだよ。同じ男だし。」


「……ですよね。」

目を見開いて頷く。

「……ですよ!」

つられて頷き合う。




「それでも、七生は俺に可愛いって言うんだ。犬とか猫とかとは全く違うものみたいに。
それに、七生に言われるとこう……嫌じゃないというか。ぎゅーっとなる。」

拳を胸の真ん中に集めた。


「木下先輩……、内館先輩の話してるとき生き生きしてる…………。」

佐藤は口許を緩ませた。やっと緊張の解いた表情を確認して、俺も顔を綻ばす。


「佐藤、友達だからって全て許す必要はないからね。佐藤は、佐藤一人のものなんだから。
簡単に、気持ちだけで動いたりしないで。」

意志を弛ませてはいけない。

――――突き破る何かがあるのならどうしようもないけれど。

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