《MUMEI》

「すみれさーん!!ただいま帰りましたよー!!」



トラックから降りた清水さんが、
店先で大声をあげる。


…椎名くんち、お酒屋さんだったんだ…



「あ、おかえりなさい!
ほんとご迷惑かけてしまって…」



そう言いながら店から出てきたのは、
椎名くんのママだった。


病院での張り手を思い出し、
私も慌てて車を降りた。



「たっ、ただいま…帰りました!!」



いそいでそう言うと、椎名ママは眉をひそめた。



「…何、かしこまっちゃって…
気持ち悪いわねー」


「え?」


「ま、元気になったんなら頼むわ」


「…え??」



困惑したままの私を置いて店に戻ると、

今度は何かを持って出てきた。



「…はい!!」



どん、という鈍い音を響かせ、
椎名ママは、それを地面に置いた。



…酒瓶の入ったケース。



「今日は、前田さんトコと、宮城さんトコ、
あと、堀田さんトコね〜♪」


「…はい??―…え!?」



おろおろする私の背中を
ばんばんと叩いて、清水さんが笑う。



「みつるも大変だな〜!!ま、配達がんばれよ!!」





………え??



は、配達…???



―…椎名くん、助けて……!!!

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