《MUMEI》

頼めば汐里は泊めてくれるかもしれないが…

(だめだめ)

私は首を振った。

汐里は、家族と一緒に住んでいる。

迷惑は、かけられない。

(とりあえず、仕事を探そう)

まだ昼間だから、職安もやっているはずだ。

立ち止まっていても、仕方ないので、私は重い足取りで、歩き始めた。

すると

「お待ち下さい」

後ろから声がした。

しかし、私の足は止まらなかった。

歩道には、他に人がいて、私にはそんな風に話しかけられる覚えがなかったからだ。

声が、更に大きくなった。
「お待ち下さい!…ゆき『様』」

「は?」

私は、一応、足を止めたが、まだ振り返らなかった。
自分が『様』付けで、呼ばれるなんて思わなかった。
『ゆき』なんて名前は、特に珍しくも無い。

なのに。

「あぁ、良かった」

声と足音は、私のすぐ後ろで止まった。

「あの、誰かと間違えていませんか?」

私は恐る恐る振り返って、質問してみた。

「いいえ。あなた様に間違いありません」

(そう言われても…)

私は、信じられなかった。
私を『迎えにきた』と言う人達は、皆『灰色』だった。

『灰色』は、私を『疑っている』証拠だった。

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