《MUMEI》

◇◆◇

 胡蝶の言葉に、一同は絶句した。

 六人には、どう見ても胡蝶は姫君にしか見えないのである。

 太陰は未だ目を見開いたまま、胡蝶に尋ねた。

「本当に‥お主は姫君ではないのじゃな?」

「はい、私の名は胡蝶。姫様の身代わりをする為、祇園から来たんです」

「じゃあ、本物の姫様はどこに‥」

 青龍が呟くと、胡蝶は俯いた。

「それが‥誰にも分からないそうで‥」

「でも、本当に瓜二つだよな‥」

 不安げな青龍の傍らで、朱雀はしげしげと胡蝶に見入る。

 それをすかさず白虎が咎めた。

「朱雀、よしなさいったら。失礼でしょ?」

「だけど、言われなかったら気付かないよな。この人が姫の身代わりだなんてさ」

「‥そうよね。本当によく似てる」

「朱雀、白虎」

「ん?」

「何、玄武?」

「わたし達は胡蝶を守らねばならん。分かっているな」

「勿論」

「分かってる」

 二人の返事を受け、玄武は胡蝶に向き直る。

「胡蝶、わたし達が必ずや姫君を連れ戻す。貴女は姫君の身代わりを頼むぞ」

「はい、分かりました」

 胡蝶は小さな式神達に頭を垂れる。

「そんなに畏まらなくていいよ、胡蝶。普通に話していいんだ」

 少し気持ちがほぐれたのか、胡蝶は安堵の色を浮かべた。

「ね、胡蝶は花が好き?」

 六合の問い掛けに、胡蝶は目をしばたかせた。

「花‥?」

「姫様は花がとても好きなんだ。胡蝶はどう?」

「わたしも花は大好き。見ていると、穏やかな気持ちになるの」

「やっぱり、似てるんだね、姫様に」

「ねぇ、姫様は‥どんな方なの?」

「とても風雅で淑やかな方なんだ」

「風雅‥」

「大丈夫。胡蝶なら出来るよ」

 六合が話を終えると、今度は太陰が口を開いた。

「済まなかったな、胡蝶。曙に邪魔をして。疲れておろうに」

「ううん、平気」

 胡蝶は笑って見せたが、その表情に困憊の影が浮かんでいる事に、気付かない者はいなかった。

「少し眠るといい」

玄武に促され、胡蝶は寝床に入る。

 時は既に、卯の刻を回っていた。

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