《MUMEI》
常識
「まあ、今考えてもよくわかんねえし。とりあえず、これからどうすんだ?」

沈黙を破ったのはレッカだった。

「レッカは?」

「俺は、仕事しなきゃいけない。マボロシ退治。つか、そもそもおまえら、どこ行こうとしてたわけ?」

「それは……」

凜は言いながら羽田を見た。

「先生が、逃げ遅れた人を助けたいとか言うから」

その言い方は、まるで羽田を非難しているかのようだ。

「だって、わたしにも何かできるかもしれないと思って」

「それで、危うく死にかけたってわけだ」

呆れたように言いながら、レッカは銃を肩に担いだ。

「あんたって、教師のくせにガキみたいなこと言うのな。いや、いまどきガキでもそんなこと言わないぜ? みんな自分のことで精一杯だ」

「ま、先生はこちらの常識を知らないから」

レッカと凜、二人の視線を受けて羽田は俯いた。

「だって、まさかこんなことになるなんて知らなかったし」

「ああ、ま、そうだな。そんじゃあ、教えといてやる。こっちじゃ、他人の心配する奴なんていない。俺たち討伐隊だって、結局は自分の為にやってんだ。人を助けようなんて、力もないくせに言うもんじゃない」

レッカに同意するように凜は頷いた。

「つーことで、今日は帰れよ。こっから先は一般人立入禁止だ。先生はこっちの人間じゃないんだから、こっちのことには関わらないほうがいい」

レッカの口調が冷たく聞こえる。
羽田は小さく息を吐いた。
たしかに、凜とレッカの言うとおりだ。
結局のところ、この世界のことを何も知らない羽田が、何かできるはずもないのだ。

いったい自分は何を息巻いていたのだろう。
ただ、普通ではありえない状況に遭遇して興奮していただけなのかもしれない。

羽田は自分の軽はずみな行動を反省し、頷いた。

「わかった。今日は帰るね」

「ああ、そうしてくれ。凜も」

「うん」

凜は頷くと、来た道を引き返そうと体の向きを変えた。
その次の瞬間、目の前に続いていた道路が突然、消えた。

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