《MUMEI》

その様子を見ていた私は、無意識に唾を飲み込んでいた。

「うん、美味しい。

ほら、大丈夫でしょ?

さぁ、飲みなよ」

右近さんは空になったコップを高々と持ち上げた。

左近さんが、無言で私の顔の前に残っていたもう一つコップを近付けた。

私は震える右手でそれを受け取ると

恐る恐る、口を付けた。

一口水が入ると…

カラカラに渇いた私の喉は更に水分を欲し

私は、気が付くと、コップの水を飲み干していた。

私は、空になったコップを左近さんに渡した。

「じゃあ、約束だからね。
出口は、あっちだよ」

右近さんはあっさりと私を掴んでいた手を離した。

「…どうも」

私は、右近さんが指差した方向に向かって走り出した。

二人は私を追いかける様子はない。

「気を付けてね」

そう言った右近さんの声は…楽しそうに聞こえた。

私は振り返らなかった。

そんな様子を静観していた左近さんが、ポツリと呟いた。

「右近は、…すごい」

と。

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