《MUMEI》
照リ栄エテ
此処は農業が発展している。
林太郎が識る商い、下町等の都会の賑やかさは無く、鳥が一声啼けばその方向へはっきりと向ける程だ。

林太郎の話題は田舎の者達には恰好の餌食だった。

慶一が昼間に林太郎を連れ出せば有ること無いことを囁き合う。



「林太郎君、木登りは出来るかい?」

専ら慶一が好んだのは山で遊ぶことである。
草笛を覚えてはしゃぎ回る慶一は子供だった。
父、真造が勉学に力を注がせ慶一は外での遊び方を知らずに育ったせいだ。
隔離され、昼夜問わず教育中の林太郎にとって慶一は息を抜くのには必要不可欠であった。
二人で出掛けることは子守りを任された家政夫の気分に似ていた。

大切な北王子の跡取り息子である。ただ勉強だけ出来れば良いというものではない。
林太郎は慶一が相応しいと識っていた。

慶一には身につけている知識は必要とあれば渡すつもりであった。

彼にはそう思わせる力が秘められている。
其のことは林太郎以外は恐らく本人でさえ気が付いていない。

「それより今日は近くの雑木林に案内して呉れよ」

林太郎は雑木林の奥に見えた柵をずっと気にしていた。

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