《MUMEI》

『主』

「わかってる」

『栄養』を『姫』に与え終えた神は、そう言って、着衣を整えた。

「行くぞ」

『はい』

『姫』も神子装束を身に付け、寝所を出ていく神に続いた。

「神様。…どちらへ?」

寝所の前にいたスーツ姿の男に神は

「『守護神』の屋敷だ。例の娘が目覚めた」

と告げた。

神が屋敷に到着すると、他の『守護神』が、何故か左近の部屋の前にいた。

確かに、娘―ゆきの気配は、左近の部屋からする。

「どうした」

「開かないの」

翔子が神に駆けよってきた。

「そんな」

『馬鹿な』と言おうとした時。

障子が開いた。

中にいたのは、部屋の隅にいる上半身裸の左近と

中央で仰向けに眠るゆき。
そして

ゆきの前に、守るように、浮かんでいる『剣』。

その姿に、誰もが絶句した。

「何よ、やっぱり、『できそこない』じゃない。

…ねぇ、神?」

翔子が安心したように、神を見つめた。

『できそこない』

翔子がそう言うように、ゆきの『剣』には

肝心の

刃が無かった。

こんな『剣』は、今まで誰も見たことが無かった。

やがて、黒いそれは、銀色の光に包まれた。

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