《MUMEI》
過去の名。そして・・
「全員迎撃せよ!!捕虜の奪還を許すな!!」
声を上げながらも降りてくる三人に向かって疾走するアルトレア。
周囲でも三人に対して迎撃準備が整っていく。
3対6千・・
本来ならば戦いにすらならない戦力差。
だが三人はいずれも一騎当千。
全力で迎撃しなければ、奪還される。
「はぁああああああ!!」
強く、地面を蹴り自身を宙へと飛ばす。
眼前にはロアと彩詩。
だがソレを大きく越す跳躍。
背に翼も無く、飛翔用の魔力も纏っていない、力任せに近い跳躍。
狙いは・・
「覚悟!!」
ハンディング。
いかに優れた魔女であれ、近距離戦・・詠唱の時間さえなければ最弱。そう判断したのだが・・
ギィィン!!
防がれたと気が付いた時点で、ハンディングの体を下へ蹴り落とす。
「ふむ・・広範囲攻撃は怖いと見えるな。」
音も無く地面に着地したハンディングに数秒遅れて着地するアルトレア。
「なるほど・・マトモな魔女ではないと思ってはいましたが・・」
距離を取る素振りさえ見せないハンディングに向かって油断なく剣を構えながらジリジリと間合いを詰めていく。
「くっくっく・・言ってくれる。接近戦は苦手だが・・来るがよい。」
そう言いながら一振りのナイフを取り出す。
黒い刀身に刻まれている複雑な紋様。魔術師用のナイフだと一目で解るソレはハンディングの魔力によって薄紫色の燐光を散らす。
「その燐光・・シレントリアスの「エルシオンの姫」なのですか?」
「古い名を・・今は「狂気の深淵」と呼ばれておるよ。」
紫色の燐光、現在それを纏っているのはハンディングただ一人。属性に当てはまる事の無い、その燐光はあまりに有名であった。
ハンディングがまだ、シレントリアスの森で生活をしていた頃。
その燐光を見たある国の王が、「伝承にあるエルシオンの鎮魂者のようだった。」と側近に話した事が始まり。
その話は大陸全土に様々な噂を巻き込みながら広まった。
曰く「シレントリアスには神々の恩恵を受けた姫が居る」
曰く「シレントリアスは死人の姫が住む」
曰く「シレントリアスの森には冥府の門を護る姫が居る」
当時、幼かったアルトレアが鮮明に覚えている程の伝聞。
だが、それから数年でシレントリアスの森は消滅し、「エルシオンの姫」の行方も解らず噂も消えていった。
「・・・慈悲深く、聡明な方だと聞き及んでいましたが。」
構えを正すように静かに剣を握りなおす。
「古き昔の事、されど見せよう。「エルシオンの姫」と言われた真実を。」
ハンディングがローブを脱ぎ捨て、緩やかに微笑む。

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