《MUMEI》
もてる男の憂鬱
自転車置き場で自転車を探していると鈴木がいた。


「鈴木〜!」


意味もなく声をかけて手を振ってみる。


「恥ずかしいから大きい声で名前呼ぶのやめて」


鈴木が迷惑そうに言う。


「あぁ・・・ごめんごめん」


「お前って本当に色気がないよなぁ〜」


「は?どういう意味?」


「そのまんまの意味」


なぁーんか癪にさわるなぁー。もうっ。



「ねぇ、せっかくだしお茶して帰らない?」


小川君のことを口止めしたかったし、思い切って誘ってみた。


「え?お前と?だっりぃー」


ダルイですって!


「もぉーっ!!!本当に失礼」


ほっぺた膨らまして怒った振りすると、


「分かった分かった、じゃ、おごれよ」


鈴木も笑いながら冗談ぽく言った。


え?おごるの?
なんで?

・・・

ま、口止め料ってことで出すか・・・


「ドリンクバーだけだからね!!!」







それから鈴木と近くのファミレスに行った。


「最近どうよ?」


まずは世間話から。


「うーん、・・・。ガタガタ」


ん?がたがた?


なんか鈴木の様子がおかしい・・・


「・・・彼女さぁ」


「あぁ、この間の話し合いの件?」


鈴木はうつむいた。


なんかあったのかな?


「昔からの彼女、詩織って言うんだけど・・・急に別れたいって言い出した・・・」




「そ、そう・・・」




思いがけない話で、なんて返事して良いのかわからず、沈黙が続く・・・



「でも、もう一人いるじゃん。そっちは?」


「・・・・・・・」



まずいこと言ったかな・・・



「詩織が・・・あんなこと、言うなんて思ってもみなかったからさ・・・」


ショックなんだ・・・



「でも自業自得でしょ?」


「厳しいこと言うな、お前」


「だって、そうじゃん。今まで何度も浮気を繰り返して、その詩織って人を泣かしてきたんでしょ」



「・・・」



言い過ぎたかな・・・


よく見ると鈴木の目が赤い・・・


こりゃ泣いたな・・・



「ごめん・・・私、別に悪気が・・・」



「いいよ、その通りだし・・・」



小川君のこと言い出しにくいな・・・。



「なんか湿っぽくなって悪かったな、俺・・・帰るわ・・・ごめん」



鈴木は寂しそうな背中をして帰った・・・



女ったらしの鈴木でも、悩むことあるんだ・・・


意外。

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