《MUMEI》

◇◆◇

 桜の宮が局に戻り、狐叉は見張りをすると言って出て行った為、妖月が胡蝶の元に残った。

「そうだ姫、姫は何処へ行っていたのだ?」

「‥ごめんなさい、何も覚えていないんです」

 妖月の問いに、胡蝶は咄嗟に取り繕った。

 妖月は胡乱げな顔一つせずに頷くと、澄んだ空を見上げる。

「うむ、今日は良い日和だな」

 暖かな日和に眠たくなったのか、妖月は小さく欠伸をした。

 まだ幼い用心棒の傍らで、胡蝶は散り行く花を瞳に映す。

「‥‥‥‥‥」

 心に浮かぶのは、行方の知れぬ姫君の事。
 
 無事なのだろうか。

 いつ戻られるのだろうか。

「‥‥‥‥」

 匂袋を堅く握り締め、胡蝶は靄のかかった彼方を見つめる。

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