《MUMEI》

◇◆◇

「姫、どうしたのだ?」 

 突然の問いかけに、胡蝶は顔を上げた。

 見ると、妖月が不安げな表情をしている。

 きょとんとする胡蝶に、妖月は顔色を窺うようにして言った。

「気分が悪いのか?」

「大丈夫。少し考え事をしていただけですから」

「そうか、姫は大変なのだな‥」

 妖月は重々しく頷き、傍らに据えていた薙刀の刃を磨き始めた。

 その様子を、胡蝶は不思議そうに眺める。

 妖月はそれに気付き、手を止めた。

「これか?いつ何が起ろうと安全なように手入れをしているのだ」

 すると胡蝶は僅かに怯えたような声色で言った。

「何かが‥起るのですか」

「いや、心配は無用なのだ。我らが姫を御守りする」

 妖月はあどけない笑顔を見せ、ふと遠方に目を向けた。

 朱雀門近くで見張りをしていた狐叉が戻って来たのだ。

◇◆◇

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