《MUMEI》 ◇◆◇黄泉からの霧◇◆◇ 静寂な空気を破ったのは、勾陳の陽気な声だった。 「大丈夫よ。私達に任せて」 「あのう‥」 胡蝶の声は震えていた。 勾陳は徐に近付き、胡蝶の手を両手で包み込んで言った。 「何も心配しないで。私達が付いてるから」 「ええ、そうですとも」 天后は少し離れた所から、胡蝶に微笑みかけた。 傍らの貴人は胡蝶の手に握られた護符を見、思った。 (やはり狐叉は勘づいたか) 一足遅れて現れた騰蛇は不穏な空気を感じ取り、鬼門の方角を紅い目で睨んだ。 天空が呼びかけたのはその時である。 「騰蛇、来なされ」 騰蛇は渋々、表に回った。 「‥私に何の用だ、天空」 騰蛇が訝しげに見据えると、天空は言った。 「お前に頼みがある」 「頼み、だと?」 嫌悪の色をあらわにする騰蛇に、天空は穏やかな口調で続ける。 「暫く鬼門を見張っていてもらいたい」 「‥私でなくとも他の者に頼めば良いだろう」 だが流石に天空には逆らえないと悟った騰蛇は、大きく一つ息をつくと、こう言い残し去って行った。 「‥私が戻るまで決して結界を緩めるな、と勾陳に伝えておけ」 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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