《MUMEI》

「やっとテメェがまともな人間に見えてきた」
だからせめて、ここに在る内は生きることを望んで欲しいと、滝川の耳元での深沢の低音
その柔らかな音は今の滝川の涙腺を壊すには充分すぎて
泣いてしまう理由が滝川本人にすら分からず、それでも涙は止まる気配はない
「・・・・・・暫く、反対向いてろ」
涙に震える声に、深沢は言われた通り滝川へと背を向ける
背に滝川の額が触れて
暫くの間の沈黙
その内に、滝川から穏やかな寝息が聞こえ始めていた
「何、やってんだか」
眠る滝川の身体を抱えなおしてやりながら僅かに肩を揺らしながら
深沢はとりあえずこの場を後にしようと、滝川を横抱きにテラスを出て
仕方なしにパーティー会場へと向かうため外へと出た
車を取りに駐車場へと向かい始めたその直後
突然、足元から大量の蝶が現れ深沢を取り囲んでいく
幻影に惑わされた、愚かな蝶々達
その毒気に中てられ、次々と土の上へと落ちてしまっていた
それでいてまだ息が有るらしく、羽根を小刻みに動かし震える様はあまりに憐れに見えた
「とても、綺麗ですね。落ちた彩りも、飛ぶ彩りも」
蝶を憂えていた深沢へ、背後からの声
ゆるりと首だけを巡らせてみれば、そこに居たのは一人の少女
深沢へと向け、笑みを浮かべる
「テメェ、何処のどちら様だ?」
深沢の問いに、相手は更に笑みを深く浮かべ耳元へと唇を寄せてきた
「私は、雫。あなたの番になる陽炎を身に飼う者」
甘い、その声
呟き、手で深沢の頬へと触れると雫は満足気な顔でくるりと踵を返し
その姿を消していた
突然の事に訳が分からず、だが何か嫌な予感を覚えながら
深沢は車へと乗りこみ、祝賀会の会場へと向かったのだった・・・・・・

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