《MUMEI》

◇◆◇

 午の刻には戻ると言っていた狐叉達が未だ戻らない事を、胡蝶は些か気にかけていた。

 勾陳や天后が付いていてくれるので安心はしていたが、やはり何か不穏な気配を感じずにはいられなかった。
「‥‥‥‥‥‥」

 風が、ぞわりと頬を撫でて行ったのを、胡蝶は空ろな目で追った。

(姫様は‥いつもこのような境遇におかれていらしたのかしら‥)

 妖月が戻って来たのは、その時である。

「すまん、待たせたな」

 それは、微塵の不安も感じさせない暖かな笑顔だった。

 胡蝶は安堵し、にっこりと微笑みかける。

 すると妖月は頷き、何事もなかったように柱に凭れてまどろみ始めた。

 その様子に、胡蝶は愛でるような目差しをする。

 式神達はそれを見届けると、自身の持ち場へと向かった。

 己の身に何が降りかかろうとしているのか、胡蝶はまだ知る由もない。

◇◆◇

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