《MUMEI》

◇◆◇

 それは、丑の刻を回った時だった。

(‥‥?)

 妙な気配に、胡蝶は目を開けた。

(‥何‥?)

 人ではない、何か。

 ざわざわと風が通り過ぎて行くのが分かった。

 様子を窺おうと視線を動かした時、胡蝶はある事に気付いた。

 体が、押さえ付けられているように動けなくなっているのだ。

(‥‥‥!?)

 そして胡蝶の瞳に映った物、それは──漂う、霧。

 暗い中で、それは白く所々光るように浮かび上がっている。

 (何‥)

 霧は次第に広がり、煙のように辺りを覆い尽くした。

 見開かれた胡蝶の瞳は、その霧をとらえたまま閉じる事が出来ない。

 暫くすると霧は跡形もなく消え、妙な気配も失せた。

 胡蝶はゆっくりと起き上がり、大きく息をつく。

(何だったのかしら、今の‥)

 狐叉達が案じていた事──それは恐らくこの霧と関係があるのだろう、と胡蝶は思った。

(あの霧は‥どこから来たのかしら‥‥。どうして体が動かなかったのかしら‥)

 一心不乱に考えを巡らせた胡蝶が再び寝床に入ったのは、寅の刻を過ぎた頃だった。

◇◆◇

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