《MUMEI》
偶然
相変わらずテンションの低いまま、加奈にライブハウスへ連れてこられた。


「ライブ、絶対におもしろいからね☆」


と、加奈に言われた割には、私は楽しむことも出来ず、テンションの上がった空間の中、一人だけ取り残された気分だった。



ライブも終わり、打ち上げに行こうと誘われた。

どうやらそこで加奈の彼氏を紹介してくれるらしい。





「今日はお疲れしたぁー!!!!カンパァーイッ」




ボーカルを担当していた子の掛け声で打ち上げは始まった。




「えっと・・・彼氏の真治」


ちょっと恥ずかしそうにモジモジしながら加奈が紹介してくれる。


そのモジモジ加減がイライラする。


「美樹子ちゃんは京都の大学に行ってるんだって?しかもA大だろ?すっげぇな。」


真治がとりあえずの話題をふってくる。


「いや、すごくはないよ・・・東大とか京大とか、もっと上の大学はたくさんあるし・・・」


美樹子も大学に行くまではA大に合格するなんて自分はすごいと思った。


しかし入学してみると、学生の大半は阪大や神大のすべり止めで受験し、結局A大に入学した人が多いのを知ってからは、A大を「すごい」と言われるのが一番困った。


「でも俺の大学よりは偏差値が高いし、やっぱりすごいよ!」


「ありがとう・・・」


こういう場合は素直にお礼を言うしかない。


すると横から誰かが会話に入ってきた。


「誰がA大って?」


ドラムの大ちゃんだ。
彼は年は同じらしいが、体格も良く髭をはやしていて同級生には見えなかった。


「加奈の友達の美樹ちゃんがA大なんだって」


「A大は俺の友達も行ったよ」


と、友達がA大に!?!?!?
これは新たな出会いの予感☆


ずっとテンションが低かったのに、今の言葉で一気に元気になった。


「え?まじでぇー。誰だろ?同じ学部かなぁ・・・。なんていう人?」


「鈴木。知ってる?」


す、ず、き ?


「お前、鈴木なんて何人いると思ってんだよ!!!」


真治が大ちゃんをからかう。


「あぁー、そっかー。ハハハハ。でも下の名前知らねぇんだ」


ま、まさかねぇ・・・


「ちなみに、その鈴木君はどちらの高校?」


「たしか・・・S高だったはず」


S高ーーーーーー!?


「中学からバンドしてたグループで、去年のこの時期ぐらいには受験あるからぁってガラにもないこと言ってたからさ。」


バンドを組んでたのは聞いたことないなぁ。


「で、三月に京都に行く前に俺の卒業ライブに来てくれて、その時にA大に決まったって言ってたからさ」


「そ、そうなんだ。鈴木くんかぁ・・・」


たしかに風貌はバンドをしててもおかしくないけど・・・

S高にも「鈴木」は何人かいるだろうし・・・


「てか、なんでお前がS高生と友達になれんだよっ」


真治が相変わらず大ちゃんをからかう。


「いや、ほら、詩織の・・・」


しおり?


「あ、あれ?え?そうなん?あぁ、それが、あぁなるほどね」


真治は納得し、加奈は女の子の名前が出ていることに不安そうに聞く。


「しおりって・・・誰?」


しおり?それは鈴木の彼女よ!


てことは大ちゃんの「鈴木」はあの「鈴木」じゃん!?!?


てことは、てことは・・・



すっごい偶然

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