《MUMEI》

神楽の態度が、そう言っていた。

「…そろそろ、『あちら』の桜も見頃かしら?」

庭の満開の桜を見つめながら、神楽は話題を変えた。
もう、三月も終わろうとしていた。

「そうですね。母上、お披露目は中止しても、『あの方』には娘の事を報告する義務はあると思いますが」
「わかっています。それは、私が参りましょう」

「しかし…」

それは、本来当主の神の役目だった。

「あなたは、引き続き娘の監視をしていなさい。

当主として、そちらの方が重要です」

「はい」

神は頷いた。

逆らえない事はないが、それをするのが面倒だった。
「では、明日、『あちら』に参ります」

「道中、お気をつけて」

「ありがとう。

そうそう」

神楽は、最後に言った。

「あの娘が役に立たなければ、他の三人に精気を与えるだけの存在になってもらいます

役に立てば、一生、お兄様のかわりに死ぬまで働いてもらいます

どちらにしても、神の婚約者は翔子以外に考えていません

あなたも、そのつもりでいなさい」

―と。

神は、その言葉に無言で頷いた。

そして、神楽に一礼し、『姫』と共に、寝所―自分の部屋へ戻った。

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