《MUMEI》

『後悔しておられるか?主』

部屋に入ってすぐに、『姫』が神に質問してきた。

「何をだ」

『小娘を、御剣の…『守護神』の運命に巻き込んだ事を』

「同情はする」

神は、戸惑ってばかりいる、同い年とは思えない印象のゆきの姿を思い浮かべた。

何も知らずに、十八年間過ごした、娘。

恐らく、『姫』に、神に会わなければ、平穏な人生を歩めたはずだ。

「しかし、仕方ないな」

そう、仕方ない。

ゆきは、既に『守護神』となってしまった。

御剣一族に囚われ、これから先は、自由も、希望も無い。

ただ、国を守る為の

『生け贄』

になるしかないのだ。

「俺と、同じだな」

『いいえ、主は最強の守護神にして、御剣の当主。

あんな、小娘とは違いまする』

(違わないさ、何も…)

どれだけ力があろうと、何も違わない。

前当主である母の意見が、最優先される、当主とは名ばかりの、この状態を、神は冷静に理解していた。

神が信用できるのは、自分と『姫』だけだった。

それ以外は、どうでもいい。

それどころか、その二つでさえ、どうでもいいと思える時が、神にはあった。

だから、ゆきには神がかすんで見えるのだった。

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