《MUMEI》

「は、離せ。俺に触んな!」
身体を拘束するその腕に、やはり嫌悪感を覚え
振り払おうと暴れるがそれは叶わなかった
「奏、やめなさい。お前は今から私だけの物になるんだ。愛している、奏。お前だけをずっと・・・・・・」
満面の笑みを浮かべながら、秀明は懐から何かを取って出した
薄紅の液体が入った注射器
その色に、深沢は見覚えがあった
「幻影の成長促進剤・・・・・・?何で、そんなモン・・・・・・」
かつて自身にも使用された事のある薬剤
その使用用途は一つしかなく
嫌な予感が、彼の脳裏に過ぎる
「・・・・・・まさか、奏の中に蝶の・・・・・・」
全てを言の葉にすることはあえてしなかった
口に出してしまえば現実になりそうな気がして
だが、それも最早徒労に過ぎなかった
「そうだ、深沢。この子の中には蝶の、陽炎の蛹が居る。陽炎は美しい蝶だ。そしてこの子も。だから、この二つが融合すれば最高に美しいものが出きる」
「・・・・・・テメェ、脳みそまともに動いてるか?どこの世界に息子に恋焦がれる父親がいるってんだよ」
「恋?そんな簡単な言葉で語って貰いたくはないな。私は蝶の毒で妻を失った。私は妻を愛していた。この子はその妻に瓜二つなんだ。だから・・・・・・」
「要するに身代わりってヤツか。随分と捻くれた愛情だ。与えられるほうはさぞ迷惑だろうな」
「何とでも言えばいい。この子は私だけの物だ」
針先が、滝川の腕に掛かる
当然黙って見ているはずのない深沢が、手近にあったワイングラスを秀明へと投げつけていた
「邪魔を、するのか。お前は、何故・・・・・・」
「下らねぇからだよ。テメェの考えてること全部が。何が愛だ。馬鹿じゃねぇのか」
「何と言われても構わない。私はこの子と・・・・・・」
語る声の途中
突然に秀明の肩が掴まれた
何事かと向き直れば
そこに高宮の姿
秀明へと向けるその表情はすごい剣幕だ
「高宮・・・・・・」
「滝川。あの子は雫はどうなってしまうんだ?このままでは・・・・・・」
今更ながらに不安に駆られる高宮へ
だが秀明は笑う声を漏らしながら
「あれは最早手遅れだ。出来損ないの癖に寄生する速さだけは速いらしい。だが安心しろ、あれは直に死に至る」
高宮へ残酷な言の葉を言い放つ
何故だと言い寄る高宮へ
「言っただろう?あれは出来損ないだ、と。あれに人を死不(しなず)の身体にするほどの力などない」
あとは死ぬのを待つばかりなのだと笑いながら告げていた
その言葉に、動揺しないはずもなく高宮は雫の下へ
「・・・・・・雫、しっかりしなさい。大丈夫、お前は私が必ず助けて・・・・・・」
言い聞かせてやる言葉も途中、
銃声が二発
乾いた音を立て発砲されていた
発砲したのはどうやら秀明で
その弾が撃ちぬいたのは高宮と雫だった
「せめて、愛する娘と共にあの世へと送ってやる。高宮、今まで有難う。おかげで私は望むものを手に入れることができた」
感謝している、と心にもないことを言って吐き、
だが事切れた二人へ
その声が届く筈もなかった
「・・・・・・深沢、これ一体どうなってるの?奏君何で・・・・・・」
目の前に広がる惨状に、中川の震える声
深沢の上着の裾を引き
酷く動揺しているらしい彼女
深沢も様々起こる事柄に脳みそが付いていけず、立ち尽すばかりだ
「・・・・・・そうだ深沢、そうやって大人しく見ていればいい。美しい蝶、その誕生の瞬間を!」
言い終わりと同時に滝川の腕へと針が刺し入れられる
「い、嫌だ。離せ!はな、せ・・・・・・・・」
拒む声が段々と細く消え
抵抗するように暴れていた手は床へと力なく落ちて
見開かれたままの眼は濁り何を写す事もしなくなってしまう
「・・・・・・奏、もう直ぐだ。もう直ぐお前はこの世で最も美しい蝶に生まれ変わる」
動かなくなってしまった滝川を抱き起こし、その衣服を剥ぎ取りながら
晒された裸体、その背が湿り気を帯びた音を立てながら裂けていく
そこから現れたのは巨大な蝶の黒羽
その光景は、深沢にとって不快なものでしかなく
吐き気すら催し、酸い胃液が口内に嫌な後味を残した
「深沢・・・・・・、奏君どうなっちゃうの?」
目の前の惨状に中川の震える声
深沢の上着の裾を引き、酷く動揺しているらしい彼女へ
溜息を一つつきながら、

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