《MUMEI》
登校 〈おれ〉
「…め!!…かなめ!!!」


「…ん…」



声に、目が覚めた。



「かなめ!!遅れるわよ!?」


「ん…??」



…かなめ、って…??



「もう6時半よ!?」


「…ろくじ…はん………
―…っ!!あ――ッ!!!」


やばい!!準備しねえと!!



おれはベッドから飛び降りると、着替えを始めた。



「…寝坊なんて珍しいわね。
じゃあ、早く降りてきなさいよ??」


「はーい!!」


やっべえ!!目覚ましセットしてたのに…


ベッドの脇には、すでに起きて
耳の後ろを掻いているゴジラがいた。



「…起きてんなら、起こしてくれたっていーだろー??」



文句を言うと、ゴジラは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


ムカッとしたが、犬と喧嘩してる場合じゃねえ!!


シャツに腕を通し、ボタンを―…


…って、ボタン逆じゃん!!

男子のシャツと違って着づらい…



やっとのことで着替えを済ませると、
ドタバタと階段を駆け下りた。



「…おはよう」



リビングに駆け込むと、テーブルには、
新聞を広げてコーヒーを飲むおじさんが。



「…お、おはよう、ございます…?」



…誰??



「パパ!!タルト食べる??昨日作ったんだけど…」



と、蓬田ママ。


ああ!!蓬田の父ちゃんか!!



「…いや、いい。もう出るから…」


「…そう。…じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい!!」


「…ああ。行ってくる」



短いやり取りの後、蓬田パパは立ち上がり、
鞄を掴むと、リビングを出て行った。



「…ほんとにもう…、
朝かなめと顔合わせられるのも、たまになのに…」



蓬田ママの呟きが聞こえる。


…父の威厳ってやつか?
ダンディって言葉がぴったりな感じの親父さんだった。


若い頃、おれに似てたって…


てか、あの人の若い頃なんて、
そんなの、想像もできなかった。



「かなめ!!何してるの!?遅れるわよ!!」


「…え??―…わあっ!!!」



時計の針は、6:40を指していた。



「朝ごはんは!?」


「…いいです!!」

…食べたかった…



「―行ってきます!!!」


「あ!ちょっと!!かなめ、これ!!」



おれを呼び止めて、蓬田ママが小さな紙袋を差し出した。



「…お弁当と、タルト!!
―行ってらっしゃい!!」


「どーも!!…行ってきまっす!!」



おれは、紙袋を受け取ると、
勢い良く玄関から飛び出した。

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