《MUMEI》
それは変わらぬ波音と、4
「なぁ、夏休み中どこかに遊びに行かね?」
俺と薫、咲、それに部活を休んだ未央とで帰路に着く。
「あんたの場合、毎日遊ぶでしょうが。」
「失礼な。俺だって夏休み最終日は宿題をうつすさ。」
「薫君。そういうのは自分でやらないと意味無いと思うよ?」
「いいんだよ、どうせ俺は家をつぐんだし。」
薫の家はこの町唯一の喫茶店兼定食屋である。親が継がせたいらしく、薫自身も継ぎたいと言っていた。
「というわけで、とりあえず明日はどうする?」
「・・・・・・・・すまん。明日は無理だ。」
学園が夏休みに入るのは7月21からと決まっている。つまり、その次の日22日は俺にとって忌ま忌ましい日だ。
「ついでに言えば、悪いが今週は遊ぶ気にはなれん。遊ぶならお前らで行ってきてくれ。」
「・・・・・・・・ねぇ、言いたく無かったら言わなくてもいいから。あんたは毎年この時期になるとそういうけど何があるの?」
俺の傷に関わる質問。
咲がぴくりと反応する。こいつは本当の事を知っているし、一部を関わってもいる。こいつにとってもいい想い出では無いだろう。
「・・・・・・・・妹と母の墓参りがある。それだけだ。」
真実の一部を話す。だが、それと同時にこれは嘘でもある。
「ごめん、悠。」
「いや、いい。過去の事だしな。」
未央が申し訳無い顔をしているが、気にしないでほしい。
いつか、この事実から先に進まなきゃならないのだろう。だが、俺は先に進みたくないし、進めない。また、あの幸せな日が来ると信じている。
だから、俺はあの出来事に捕われたまま一歩も動けないでいた。

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