《MUMEI》
第1話
入学式なのに、雨が降っている。
あ〜あ、残念。
桜も全然キレイに見えないじゃん。

「舞架(まいか)ぁ、準備はしたの?」

お母さんが1階から呼んでいる。
そうだった。
いけない、あんまりにも雨が切なくてついボーっとしちゃった。

あたしはカバンを持って、そそくさと階段を降りていった。


「ごめんお母さん。もう出れるよ」

リビングでは、お母さんが身支度を整えていた。
もう化粧もバッチリしていた。とても気合が入っている。……あたしもこれぐらいメイクした方がいいのかな?

うーん、これはちょっと濃すぎるかな。

そう。
中学でもすこーしだけメイクしたりしたけど、高校に入ったら絶対にしっかり化粧するんだ、って決めてたの。
よくN駅でN高生の人を見ては、わくわくしてた。白い肌にほんのり赤みのさすチークとか、たれ目っぽくアイライン引いたりとか……。

全部やってみたかった。
でも中学生でそんなことするのは、何だか気が引けたし、先輩や先生に怒られるからしなかった。

やっとこのときが来た、って感じだ。

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