《MUMEI》
一足早く
七生の声は漣だ。押しては引いて、繰り返す。

押されると、こそばゆくて。
引き際が、ちょっと寂しい。


「あれ?」

「良かった、酸欠で気絶したんですよ。」

安西が真横にいた。
俺は大きいホールから出ていて、長椅子に寝ていた。
扉の向こうから歓声がこだましている。



そうか、七生が優勝したんだ……。

「先輩、おめでとうございます。」

神部に先越されてしまった…………
おめでとうって俺も言いたいのに。

皆が口々におめでとうを連呼したのに、いざ声を出そうとすると苦しくなる。

そうしている間にも七生が壇上へ上がった。

――――言わなきゃ 言わなきゃ、言わなきゃ!



神部みたいに上手く言えるだろうか、一番最初に聞いた神部のおめでとうみたいに喜んでくれるだろうか。

考えれば考える程に朦朧としてきた。

「……俺、軽く意識が飛んだんだな。」

自分でかけたプレッシャーに負けて……。

全く俺は恋人を呼び止めて祝いの言葉一つ言ってやることも俺は出来ないのか。

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