《MUMEI》

「……え?」

羽田は思わず声をあげた。
道はたしかにそこにある。
しかし、それと重なるようにしてもう一つの道が途切れているように見える。
黒い穴の上で、白い砂埃がうすく舞っていた。

「ね、ねえ。なんか、おかしくない?」

隣を見ると、凜とレッカがポカンと口を開けていた。

「……なんでだ?なあ、今なんか音とかしたか?」

レッカの声に羽田と凜は首を振る。

「じゃ、なんで道がないんだ?」

「……レッカ」

「あん?」

「空、見て」

凜は冷静な目で空を見上げていた。

「空?」

レッカと羽田も同じように空を見上げた。

少し陽の暮れかかった空に薄い雲が浮かんでいる。
その雲よりもかなり低い位置に、フワフワ浮かぶ雲のようで雲ではない物体。
そこには大きな目玉が一つ、ついていた。

「……なんだ?あれ」

レッカが眉を寄せる。

「マボロシ、じゃないの?」

羽田が言うと、レッカはますます怪訝そうな顔をして「あれがぁ?」と小首を傾げる。

「だって、目があるし……」

羽田がそこまで言ったとき、雲もどきが動き出した。

音もなくスーッと動いたかと思うと、すぐ近くの家をその白い体で覆う。
そして再び宙に浮くと、さっきまで建っていた家が跡形もなく消えていた。

「ねえ、津山さん。あれ、マボロシだと思う?」

「……さあ。なんとも言えません。今まであんな型さ見たことないし」

凜は言いながらレッカを見た。
レッカは小さく頷く。

「ああ。俺も見たことない。けど、マボロシ……なんだろうな。こんな真似ができるんだから」

羽田は雲型マボロシと、その真下の家があった場所を見比べた。

「物を消すマボロシ……?」

「なんにせよ、このままじゃまずい。二人とも下がってろよ」

言ってレッカは、銃を肩に担いで走り出した。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫