《MUMEI》

「祥ちゃん!?」



ふいに教室の入り口から上がった声に、
おれと青木は振り返った。



「…椎名君!!…なに、珍しく早いねー」



青木が駆け寄る。

…よかった。助かった…

蓬田、青木のこと『祥ちゃん』て呼んでんのな。



「…あれ、椎名君、腕怪我したの??」



青木が蓬田の腕に貼られた
大きなガーゼに気づいて、指差す。



「え!?…あっ、ちょっとね!!」


「…空手で??大変だね、練習…」


「いや、大したことないし!!」


「そう??無理しないようにね」


「うん!」



硬い笑顔を浮かべる蓬田。
傷、まだ治ってないんだな…


痛いかな??


―…ほんとは、おれの怪我なのに…



蓬田は、愛想笑いを顔に貼り付けたまま、
自分の席へと歩いていった。


蓬田がかばんを置いて座ると、



「あれ!?」



また、青木の声。



「椎名君、そこかなめの席…」


「えっ!?…あ、ご、ごめん!!!」



顔を真っ赤にして立ち上がる蓬田。

ししし、おれと同じ間違いしてやがる♪



密かに笑うおれの横で、青木が



「かわいー」



と、小さく呟いた。



…なにが??

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