《MUMEI》

羽田と凜は言われたとおり、邪魔にならない位置へ隠れ、様子を見守る。
 レッカはマボロシの近くまで来ると、銃を上に向けて発射した。
普通の弾丸よりもかなり大きめな弾はまっすぐにマボロシへと飛んでいき、そして突き抜けていった。

「うわ。マジで……?これ、効かねえし」

そう呟くレッカ目掛けて、マボロシの体らしき白いモヤ部分から何かが落下してきた。

「おわっ!」

間一髪のところで、レッカは前方へジャンプしてそれを逃れる。

「なんだ?」

振り返ると、さっきレッカが立っていた部分の地面が煙をあげてえぐれていた。
よく見ると、その周りのアスファルトがドロっと溶けているのがわかる。

「……なんだよ、あれ」

顔をしかめながら言うレッカに向け、再びマボロシの体から何かが落下する。
それを走って避けながら、レッカはもう一度、銃を発射する。
しかし、やはり弾はさっきと同じように遠く彼方へと飛んでいってしまった。

「くそっ!どうしろってんだよ!?」

銃での攻撃を諦め、レッカは何かいい手はないかと周りを見渡す。
しかし、ここは住宅街。
何も使えそうなものは見当たらない。

そうしている間にも、マボロシは次々と攻撃を繰り出してくる。
レッカは必死によけ続けるが、逃げるばかりできりがない。

「……ねえ。レッカくん、追い込まれてない?」

様子を見ていた羽田は思わず口を開いた。
それに凜も頷く。

「そうですね。このままじゃ、危ないです。かといって、何もいい手は浮かびませんけど」

凜の冷静な視線はレッカを追っている。

 レッカはちょこまかと見事なまでに攻撃をすべてかわすと、ふと思いついたようにこちらへ向かってきた。

「凜、先生!」

レッカは叫ぶ。

「走れ!!」

「え……?」

理由を聞く間もなく、レッカは二人の横を駆け抜けていった。

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