《MUMEI》 有理ノ企ミA有理は流理の通う、私立光岳(こうがく)高校の制服を着た。 前髪を下ろし、メガネをかける。 「これ結構カモフラージュできるんだな」 こんなダサい変装をするのは初めてだった。ましてや流理の代わりに学校に行くのも。 ――ガラッ …誰もあいさつとかしてこない。イジメられたりとかしてないよ…な? 「谷口」 「……何?誰?」 「あたしは永井伊久子」 「ふ一ん」 まだクラス全員と打ち解けてないのか。何やってんだよ、流理。 せっかく…学校行ってんのに。 「その前髪とかだっさいメガネとか、すげぇウザイんだ。みんなもそう言ってる」 「…だから?」 女はだんだんいらついてきていた。話がなかなか前に進まないことに、苛立ちを隠せていない。 ……もちろん、有理はわざとやっている。 「切ってやろうか?」 「いい。迷惑だから。もういいだろ?どっか行け」 それ言い放った途端、女は机に唾を吐き、その場を去ろうとした。 「……汚ね一女。それでも女かよ。ありえねー」 女こと、永井伊久子には聞こえていた。短気な性格がそのまま聞き逃すのを許さなかった。 「いい加減にしろよ、この根暗眼鏡」 「放せ。ブス」 永井は有理の襟首をつかんで放さない。 「お一い席着け、そこ一」 担任が教室に入ってきた。永井は急いで手を放し、有理を思いきり睨んでから自分の席へ戻っていった。 「しまったな……流理、悪ぃ」 憤慨した様子で椅子に座る永井に、周りの席の女達が話しかける。 「ねぇ伊久子、谷口くんってあんなに喋る人だったっけ?」 「しかも何か雰囲気違くない?」 「昨日とかは何かふんわりって感じだったけど、今日はとげとげしいよね」 「谷口流理……見てなさい。このあたしに逆らったこと、後悔させてやる」 前へ |次へ |
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