《MUMEI》

「嬉しそうだな、二郎。」

乙矢と待ち合わせ場所に向かう。

「うん、皆でにぎにぎするの初めてだし。……ぷえくしょっ」

くしゃみが出た。
今日はかなり大雪のクリスマスだ……。
乙矢が首に巻いていたストールを貸してくれた。
さりげない心遣い……。


「……あー、これがモテる男の違いか……」

違いを思い知らされた。

「……どんなにモテても約束すっぽかされたらザマァ無いな。」

乙矢の溜め息は深い。
あまりに辛そうなので両手で口を塞いでしまった。

「……幸福、逃げちゃうから!
クリスマスは幸せでいっぱいになるんだよ、乙矢は笑った方がイイし。

そーだ、飴あげちゃうから。しかも3ツ!!」

ポケットに入っていた分を有りったけ渡す。

「……有り難う」

乙矢はやんわり微笑む。やっぱり、笑った方がイイ。


「二郎、鼻出てる」

「ギャー!」

だから笑っていたのか!


「はい、ちーん」

乙矢がティッシュを鼻先に付けてかむのを促す。
気持ちは親子だ。

「……パパー。手が冷たいよ。手袋使ってよー」

嵌めていた手袋を差し出してやる。

「要らない」

遠慮するなよ。

「じゃあ、この掛けてくれたストールと手袋を交換しようよ。」

乙矢の指が肌に当たったとき、氷かと思った。

「……お節介だな。」

憎まれ口叩いても受け取るとこは乙矢らしい。

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