《MUMEI》 ◇◆◇ 内裏を離れ、胡蝶は独り歩いていた。 花びらが、雪のようにとめどなく降りかかる。 ふわり。 ふわり。 まるで悪戯をするかのように、胡蝶の長い髪を軽く払った。 鶯の歌が、彼方の梢から響いてくる。 幼い声が飛んできたのはその時だった。 「お〜い!」 「‥‥‥?」 聞き覚えのある声だ。 「‥‥‥‥あ」 ふと上に目を向けると、そこには朱雀の姿があった。 「久し振りだな、元気か?」 ええ、と胡蝶は微笑んだ。 朱雀は広げていた翼をゆっくりと上下させ、胡蝶の目の前に降り立った。 「胡蝶が内裏から出るのは、初めてここに来た日以来だよな」 「ええ」 「俺が案内してやるよ。何せ広い所だからな」 「‥いいの?」 「任せとけって。俺も気晴らしになるし」 にっこりと笑う朱雀に、胡蝶は嬉しそうに頷いた。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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