《MUMEI》 永井伊久子@一一放課後。 「谷口、ちょっと来て」 「嫌」 「ちょっとって言ってるでしょ?」 「アンタに使う時間は1秒でももったいない」 一一ピリリリリリッ 「ハイ、もしもし?」 グッドタイミングとでも言うべきだろうか、ケ一タイが鳴った。 「………は?知らねぇよ。自分でなんとかしろ」 『で…でもオレ一回も有理の新曲歌ったことないんだよ?』 相手は兄の流理だった。 「聞いたことくらいあるだろ」 『あるけど、でもCMで流れてるだけじゃん………』 「…ったく、待ってろ」 有理は永井に何も言わずに教室を出た。学校を出て、人通りの少ない場所まで来ると、電話に出た。 「僕の足元には道はない 今まで 歩んできた道ならある それは僕が この世から いなくなっても 同じなんだと 思う」 有理は道端で歌い始めた。 電話の向こう側の流理に届くように。 「……流理、明日も仕事行けよ。今日の貸しだ」 『ええ一っ!ひどいよ』 「お前が悪いんだろ。オレの新曲も知らなかったんだから」 『まだ発売前じゃん!』 流理の叫びも空しく、有理は不気味な笑い声だけを残して電話を切った。 *** 「………このあたしを馬鹿にして…!絶対許さないんだから!!」 前へ |次へ |
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