《MUMEI》
一発喰らわす
「痴話喧嘩する度に俺の所来るなよ。」

乙矢はピリピリしている。しかし、気にしていられない、そもそも乙矢が国雄さんの家が危ないからと自分の家を勧めたんだ。

「だって、二郎が悪い!」

「七生が俺と安西のこと疚しい目で見るからだ!
そっちこそ、神部とやたら仲良しみたいだけどどうなんだよ!」

負けじと七生に言い返す。

「うっさい死ね!」

死ねだと!!

「乙矢ぁ、死ねって言ったぁ!」

酷い男だろ乙矢!

「……餓鬼だな。」

椅子がこちらに向き直り乙矢は俺達を見下ろす。

「だろ?コイツ全然成長しねーの!」

七生が言うなよ!

「俺が全然成長していないなら七生は退化してんじゃねーの?!」

俺に上手く返す言葉を見付けられないようで歯軋りを立て、七生は持て余した力を身体で表現する。

「バーカ!!」

糞餓鬼!
幼稚な罵りと共に後ろ手に片手で拘束してきた。

「馬鹿、離せ!痛いバカー」

抵抗するがびくともしない。

「二回言ったなバカバカバーカ!」

締め付ける力が強くなる。

「馬鹿、イテぇ……、止めろバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ」

舌が許すまで言い続けた。

「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ ……」

七生も負けじと繰り返す。



    バリィ



沈黙が流れる。

俺と七生の視線の先には真っ二つに破いた分厚い参考書の隙間から微笑む乙矢だった。


「十数える間に帰れよ?」


「「………………ハイ」」

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