《MUMEI》

そこには、小柄なおじいさんが立っていた。

「稲葉さんいらっしゃるかな?」

ニコニコ笑った顔で私に尋ねた。


「えっと…どちら様ですか?」

「ここの大家の大原祥次郎(オオハラヨシジロウ)と申します。」

「おっ大家さん!?」


「そうですよ。」

「呼んでくるので、待ってて下さい!」

どうせこのアパートの家賃でも滞納してるんだろう。
情けない奴。

私はまたため息をついて、扇風機の前であぐらかいて飴を舐めてボーっとしている探し屋に話しかけた。


「探し屋、大家さん来てるよ。」

探し屋は大家さんということばを聞いたとたん、体をこわばらせたのが分かった。

「………って。」

「なんて?」

「今はいないって言って…。」

「呼んでくるって言っちゃったから無理。」

探し屋はさっと立ち上がり、たくさんの飴をポケットにつっこみ、この部屋にひとつしかない窓に身を乗り出した。

「なっ何してんの!」

私は慌てて、探し屋の腕を引っ張った。

「はなしてくれよ!僕はあの人に会いたくないんだよ!」

「なんで!」

「……家賃払えないんだもん…。」

やっぱり。

「どれくらい払ってないの?」

「1年くらい?」

「ためすぎ!!」

「…加恋ちゃん。」

「嫌。」

「まだ何も言ってないよ!」

「お金貸してほしいっていうんでしょ?絶対嫌。っていうか貸せない。」

「なんで!?」

「私の今の所持金129円しかないから。誰かさんに飴をたくさん買ってあげたせいで!」

ちらっと探し屋を睨むとパッと目をそらされた。

「とっともかく、僕は大原さんと会えないんだよ!」

「誰と会えないって?」

「だから…。」

「稲葉くんの部屋も随分きれいになったね?こんなにきれいになるもんなんだねぇ。」

「おっ大原さん…。」

いつのまにか大原さんは私たちの横に立っていて、部屋をキョロキョロ見渡していた。

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